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【不動産業界の今後】業務のIT化から顧客体験を向上するDXへ

「Proptech(プロップテック)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」などの言葉が不動産業界でも注目されるようになってきました。ただし、その効果は非常に限定的でした。エンドユーザー(以下「顧客」)が自身の家探し・賃貸契約・引越しといった体験のなかで、それを実感することはあまりなかったのが実情です。

それが2020年の新型コロナウイルスの感染拡大により、大きく変わっていくこととなります。

本記事では、これまでの不動産業界におけるIT化と今後必要とされるDXとの違いや、求められる人材について詳しく説明していきます。

目次

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これまでの不動産業界におけるIT化とは

2015年ごろから2020年にかけて、不動産業界におけるIT化の対象は不動産事業者側の業務改善や業務効率化に向けられてきました。

これらのIT化による業務改善や業務効率化は売上に直接的につながるものではありません。そのため、中小規模の不動産事業者側では投資対象としての優先順位は低くなりがちでした。

一方で、大企業であればあるほど膨大な規模の業務を効率化するメリットは大きく、限られた大規模な不動産事業者でのみ効果を享受するという構図でした。

新型コロナウイルスの感染拡大によって進んだ不動産業界のDX

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、不動産業界も顧客側の体験を大きく変える必要に迫られました。感染防止のため、顧客は非接触型のサービスをのぞみ、オンラインありきの消費行動はさらにスタンダードになりました。

不動産事業者側にとって、ITを導入する目的が業務改善や業務効率化だけではなくなったのです。コロナ禍での顧客のニーズにこたえるために、「ユーザー体験」をIT化する必要に迫られたのでした。

それは大企業や中小企業といった規模に関係なく、不動産業界全体に求められています。

また、2021年の宅建業法改正により、これまで制限されていた範囲までIT化が可能になりました。また、政府がDX推進を打ち立てたことにより、不動産業界でも様々なITソリューションの導入に補助金があてられるようになりました。

ユーザー体験の可視化と入居希望者ニーズの変化

家探し、内見、契約、引越しといった体験は多くても年に1回程度です。不動産店舗での体験に関する不満があったとして、それが他の顧客に知れ渡ることはそれほど多くはありませんでした。それも、ユーザー体験の向上に不動産業界がなかなか目を向けられなかった理由のひとつでした。

それが、GoogleマイビジネスやFacebook、TwitterといったSNS上に染み出すようになってきました。顧客は自分の希望にあう物件をインターネット上で探したあと、Googleマイビジネスの口コミやSNSの投稿を見て問合せをする不動産店舗を吟味するようになりました。

とくに、デジタルネイティブと呼ばれる世代は、電話やメール、不要不急の来店をしないユーザー体験を不動産業界に求めるようになっています。

これは不動産事業者側にとっては新たな機会にもなっています。対応の早い不動産会社では拡散力をもったデジタルネイティブをターゲットに、ユーザー体験を徹底的にみがきあげています。

その結果、顧客からの評価を口コミやSNSでの拡散というかたちで資産化することに成功しています。

急速に普及しはじめた不動産業界のDXサービス

対応の早い不動産会社では取引のIT化を進めています。インターネットで部屋探しをしたあとのユーザー体験も以下のサービスによって契約までオンライン完結が可能になりました。

・LINEなどのメッセージアプリを使った問合せ
・ビデオ通話やVRによるWEB接客と内見
・自動物件提案システム
・電子申込・電子契約
・スマートキー
・入居者アプリ

新型コロナウイルス感染拡大の長期化は、一過性でない不動産のユーザー体験の非対面化をおし進めています。

いまだに、希望の物件を現地で見たり、周辺環境を自分の目で確かめるニーズは残ってはいますが、不要不急な不動産店舗への来店や書類のやりとりは敬遠されるようになってきました。

DXの流れに乗って成長するために必要なこと

アンケート調査によれば、80%以上の顧客が紙ではなくWEBでの入居申込みを希望していることもわかりました。(2021年9月1日~9月30日実施 イタンジ株式会社「賃貸入居申込を行う方法についてのアンケート」より)

WEB申込みにかぎらず、あらゆるプロセスのWEB化が求められています。

ユーザー体験の最大化につとめる

前述したとおり、顧客の体験は即座にインターネット上に公開される可能性があります。ネガティブなレビューや口コミがネット上に残ってしまう危険性もある反面、ポジティブな内容のものは資産になります。

これらはすぐには蓄積できるものではありません。

DX人材の育成

従業員がある日突然システムを使いこなせるようになることはありません。徐々にITへの知見と理解を広げていく必要があります。

社内の状況を理解し、市場変化にあわせて必要なシステムを見極めて導入していくことをリードする人材を育成していかなければなりません。

DXは不動産店舗の差別化につながる

どの仲介会社であっても同じ物件を取り扱うことが可能で、価格的な優位性も出しづらく、差別化がしづらいという見方があります。

一方で、コロナ禍でも仲介件数を増やし増収した企業もあります。そういった企業はどのような取り組みをおこなっているのでしょうか。

他店と差別化し、顧客に選ばれるためには

コロナ禍で他店と差別化するためには、オンラインの特性を生かしてデータを活用する必要があります。それによって効率よくオンライン上で顧客との接触回数を高め、提案の質を高めていくことができます。

CRM(顧客管理システム)を利用する

一般的な来店率は約20~30%といった会社が多く、多くの場合は他店舗へ流れてしまっているのが現状です。

来店率を向上させるには、顧客に選ばれるような体験を提供する必要があります。

対応スピードと物件提案の量と質、そしてコミュニケーション方法をIT化によって向上させていくことは他店との差別化をするうえでとても重要です。

来店までの「提案」の段階でデジタル化を進め成功をしている会社の多くは、ポータルサイトなどを経由して物件へ問合せ(反響)が入った際に顧客情報をデータ化し、顧客体験の最大化を可能にするため「顧客管理システム」 (以下、CRM:シーアールエム)を使いこなしています。

CRM(顧客管理システム)を利用した際の流れ

①反響時の顧客・物件データの自動取り込み
②オンラインでの物件提案
③来店・内見
④再提案

上記が一般的なCRM(顧客管理システム)を利用した際の流れです。

CRM(顧客管理システム)を顧客とのコミュニケーションの軸とし、データを残しながら業務を進めていきます。

顧客が何らかのアクションをした際には、自動的にタスクが実行されます。例えば、物件の希望条件を変更したその瞬間から、その条件にあったも物件が自動で手元のLINEに提案されます。顧客からしてみると圧倒的なスピード感を感じる体験です。

また、顧客がどういった時間に物件にアクセスしているか、どのような物件をブックマークしてるか、などの細かなデータが蓄積されます。それをもってさらに提案の精度を上げていけるのもCRM(顧客管理システム)のメリットのひとつです。
提案の精度があがることは、もちろん顧客体験の向上につながります。

専任の反響対応チームを編成している仲介会社も

反響対応をするチームと店舗での接客をするチームとの役割を分けることで、顧客への返信スピードと質を高めることに成功している事例もあります。

この分業では、やりとりや顧客の条件、提案済みの物件などの情報連携が非常に重要になってきます。その観点からもCRM(顧客管理システム)と分業制の親和性は高いのです。

コミュニケーション手段への配慮も顧客体験の向上につながる

顧客からの連絡が来たら即座に電話やメールをすればいいわけではありません。顧客の年代やそのときどきの状況によって、活用したいツールが異なります。

ツール メリット デメリット
メール エビデンスを残す場合に有効 緊急で連絡を取りたい場合に不向き
チャット・SNS 気軽に(短く・早く)やりとりするときに便利 長文による確認に不向き
電話 緊急性が高い・長い・言語化しづらい内容を伝えるときに便利 エビデンスに残りにくい
ビデオ通話 表情がわかるので会議や面談に有効 インターネットの通信環境によって不具合がおこる場合がある

 

上記の特性を無視して、不動産会社側が好きなツールで連絡をしてしまうだけでもユーザー体験は損なわれてしまいます。顧客の嗜好にそったコミュニケーション手段を選ぶ必要があります。

若い世代の人々は電話に慣れていないケースも多いです。また、著名なインフルエンサーが電話に対して「他人の時間を奪う」と痛烈に批判しているように、ビジネスパーソンの一部にも電話を嫌う傾向があります。

もちろん、電話での会話が望ましいケースもあります。くり返しになりますが、顧客の属性、状況によって好ましい手段を選ぶことが大切です。

一方で、多岐にわたるコミュニケーション手段を使い分けるのは不動産会社側にとっては業務の煩雑化につながってしまいます。それらを一元管理できるという点も、CRM(顧客管理システム)のメリットのひとつです。

同じコロナ禍でも2020年と2021年とでビデオ通話の利用に変化が

2020年のビデオ通話は、賃貸仲介店舗の代替手段として期待され、不動産業界で導入が進みました。緊急事態宣言が初めて出た2020年は外出が制限されるなど店舗がうまく機能しなかったためです。

ところが、2021年になっても、完全に店舗レスに移行した会社はほとんど存在しません。ビデオ通話は完全に店舗の代替手段とはなりませんでした。

ここで注目すべきなのは、店舗の一部機能を担うことには成功している不動産店舗が多く出てきている点です。デジタル(ビデオ通話やCRM)とリアル(店舗)が融合した顧客体験、いわゆるOMO(Online marges Offline)が不動産業界でもうまれたのでした。リアル(店舗)は顧客にとって価値あるものとして残ったのです。

具体的なビデオ通話の活用の流れ

ビデオ通話の活用用途としては以下のシーンでおもに活用されています。

  • IT重説
  • オンライン内見
  • WEB接客

IT重説は2022年の電子契約の解禁を見据えた準備として取り入れる企業が増加しています。実際、セルフ内見型賃貸サービス「OHEYAGO(オヘヤゴー)」では、 利用顧客の50%が重要事項説明にIT重説を選択しています。

オンライン内見は遠方への引越しの際に利用するユーザーが増え、コロナ禍では近場の物件の内見でも積極的に活用するユーザーが増えました。

これまで店舗でおこなわれていた接客をビデオ通話を利用しておこなうWEB接客も活発におこなわれるようになっています。

リアル×オンラインで成約数を最大化

WEB接客と店舗接客とを効果的に組み合わせて成約率をあげている不動産店舗は多いです。

  1. 1. 来店前にWEB接客でヒアリング・提案
  2. 来店時に最終確認
  3. 確認を終えたら内見へ

ここでも重要なのは、顧客に合わせて柔軟にリアルとオンラインを使い分けることです。

WEB接客の利点

  • 1回の所要時間が5~15分程度と短い
  • 移動をともなわないので平日でも設定可能

WEB接客を活用する不動産会社は平日の隙間時間でも商談をいれることができ、週末は内見の案内に使える時間が増えます。結果として、回転率があがり、多くの顧客に対応ができるようになるのです。

ただし、WEB接客の後に、全ての顧客を店舗に誘導してしまうとむしろコストが増えてしまいます。例えば、要望にかなう物件がない場合、無理に来店を促さず、自動物件提案などで効率よく、長期的なお付き合いをしていく必要があります。あくまで顧客によって対応方法を柔軟に変えることが重要なのです。

反面、WEB接客を経て来店した顧客には内見予定の物件の空き情報を確認したら直ちに現地へと向かうことになります。これまで店舗でおこなっていたヒアリングや提案の時間が省略できるため、店舗滞在時間を短くできるのです。そのぶん、精度の高い提案も可能になるのです。

こういったビデオ通話の活用はまだ一部の仲介会社に留まってはいますが、確かな実績を上げています。

今後の不動産業界に求められるDX人材とは

どんなに優れたITツールを導入しても、それを使いこなせない不動産会社は期待した成果を出せません。場当たり的なITツールの導入でなく、先を見据えたユーザー体験の最大化を念頭に置いた戦略的な導入が必要不可欠です。それをおしすすめるのがDX人材です。

リアルな不動産業務を熟知した上で、ITツールの導入の推進ができる人材が不動産業界におけるDX人材です。つまり、以下の要件をそなえた人材です。

  • 将来のあるべき姿を描ける
  • 描いた姿に向けてIT投資の判断をする
  • 導入にとどまらず運用までリードできる

たとえば、電話やFAXファックスといった業務を、チャットやCRM(顧客管理システム)へと代替する際にもDX人材はとても大事です。最初にツールの選定を誤ると導入後にやりたいことができないことが判明したり、自社の運用にフィットせず、現場に抵抗感を生んでしまうことがあります。

自社にとってどの機能が必要なのかを見極め、運用へと落とし込むためのIT知識が求められるのです。

この先の不動産業界では新たな収益モデルが生まれる

WEB入居申込の浸透により、賃貸借契約のタイミングでは、手書きの申込用紙やFAXなどアナログなプロセスを必要とせずにインターネットプロバイダーや引越し会社が自動で顧客に案内される世界が実現しています。これらのサービス紹介で発生する手数料が売上全体の3割をしめる不動産会社もあるそうです。

今後は、電気やガス、家具家電の購入・レンタル、各種金融サービスなど、賃貸借契約と親和性が高いサービスとの連携が増加していくことが予想されています。

そして、DX人材が中心となりデータを根拠としながら、実験的な取り組みを繰り返し、不動産業界はあらたなビジネスモデルを生み出していくフェーズにはいっていきます。

2022年は電子契約が本格的にはじまる

2022年の5月に施行を控えているデジタル改革関連法案にともなう賃貸借契約の電子化の解禁は、不動産業界にとってひとつのターニングポイントになります。イタンジの調査では、入居者の73%以上が電子契約を望んでいるという結果もでており、エンドユーザーからのニーズもかなり高まっています。

イタンジを含む不動産テック企業7社・1団体が実施した調査では、電子契約に移行したい不動産事業者は83%という結果が出ており、エンドユーザーのニーズにこたえるべく、各社が準備をすすめています。

電子契約システム導入のハードルは、CRM(顧客情報管理システム)や、基幹システムなどと比較するとはるかに低いです。従来の契約書をPDFにしてシステムにアップロードしてしまえば、関係者に簡易的に送信できるというように、操作がとても簡単だからです。

不動産業界で電子契約が普及した後に、書面・対面取引にしか対応しない不動産会社は、相対的に体験価値が低くなってしまいます。

導入のハードルは家主から理解を得ることです。そのためにもDX人材を育成し、導入のメリット・操作の簡単さを説明できるようにしておく必要があるのです。

※この記事は、全国賃貸住宅新聞にてイタンジ株式会社 代表 野口が寄稿した記事の内容を要約・更新するかたちでまとめたものです。

 

この記事の著者

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野口 真平 イタンジ株式会社 代表取締役

早稲田大学在学中に同大主催の『ビジネスプランコンテスト』で優勝、学生向けSNSを企画開発し起業。2014年2月、イタンジ入社。ウェブマーケティング、不動産仲介、システム開発、管理会社向けシステムのコンサルティング、執行役員を経て、18年11月代表取締役に就任。

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