テック入門for賃貸仲介

不動産仲介を開業するなら、データ管理と事業計画はとことん突き詰めよう!

不動産業を新たに始める方、すでに独立・開業されている方にお届けしたい「# 不動産仲介の開業を応援」シリーズ。インターネットで調べても得られにくい、お役立ち情報を独自に調査してお届けします。

イタンジでノマドクラウドのカスタマーサクセスを担当し、賃貸仲介業コンサルタントとしても活動している倉崎がインタビューにお答えします。

今回のテーマは開業時、そして開業後に必須となるデータ管理と事業計画についてです。これらの重要性を理解して適切に実行すれば、失敗するリスクを軽減できるだけでなく、利益拡大にもつなげられるでしょう。

データ管理と事業計画の甘さが事業の失敗につながる

――前回のインタビューでは、「しっかりと事業計画を立てた上で開業を考えよう」「データを活用しよう」という話がありました。まずはこれらの点について、詳しく聞かせてください。

そもそも賃貸仲介業で失敗する会社は、「情報収集と事業計画が甘過ぎる」という印象があります。その地域の実績やデータを軽視したり、開業時の事業計画の詰めが甘い結果、思うように事業が進まなくなるのです。

賃貸仲介業における事業計画では、「損益分岐ライン」や安全域の利益を確保する「客単価」の設定が不可欠ですね。

ただ、固定費の確認が曖昧だったり、計算を誤ったりしていると損益分岐ラインが不明確になるため、注意が必要です。客単価を間違えてしまうリスクもあります。

ここでいう客単価とは、仲介手数料や広告料(AD)、保険代理店をやられている場合はその利益、自社物件や管理物件であれば鍵の交換費用といった付帯の利益まで含めたものを指します。

つまり、1ヶ月分の家賃+消費税という仲介手数料は、利益の余剰をつくれるような計算になっているんです。この客単価を理解したうえで、最低限必要な固定費から原価を出し、一成約あたりいくら利益が出れば問題ないというラインを明確にすることが重要ですね。

――仲介手数料を得なくても、利益が出せるのでしょうか?

地域によっては、家賃1ヶ月分+消費税の仲介手数料がなくても、会社を維持していくうえでの最低限度の利益は確保できると考えています。地域や会社でかかる固定費によって必要な客単価は異なるので一概には言えませんが、仲介手数料が1万円や2万円でも損益分岐ラインを大きく超えてくる地域もありますね。

あらかじめ事業計画を綿密に立てたうえで取り扱う物件や紹介する物件を取捨選択すれば、仲介手数料がなくても利益は残ります。

固定概念を捨て、データに基づいて戦略を立てる

――事業計画がつい甘くなってしまうのはなぜでしょうか?

恐らく、「事業計画を綿密に立てる」発想のない不動産会社様が多いのだと思います。加えて、宅建業法で定められた「家賃の1ヶ月分+消費税」というのが足かせになって、事業計画が甘くなっているケースが多いという印象です。仲介手数料は当たり前に取れるという前提で計算される方がとても多いですね。

一方で、事業継続の観点から仲介手数料を取らなければならない地域もあります。それにも関わらず仲介手数料の割引をして、自らを圧迫してしまっている会社もありますね。たとえ客単価を計算していても、自分の経験だけで賃料単価やAD取得率を割り出して感覚的に客単価や目標成約数を設定している場合は、事業計画が甘くなりがちです。

「この地域ならこのぐらいの客単価でも収益上がるだろうな」というところを割り出してみて、そのうえで広告戦略や集客戦略を立てると、容易に集客できることもあります。例えばAD取得率が高い地域では、割引をして薄利多売の方向性にしていった方が商売としては成り立つんですよね。つまり、データや事業計画によって、集客方法やアプローチ方法も変わってくるのです。

――事業計画で重要な市場調査ですが、具体的に何をどう調べれば良いのでしょうか?

まずは競合となる店舗を徹底的に調べ上げましょう。客単価と取り扱い物件を調査すると自ずと自店舗の戦略が見えてきます。

調べ方は同じ地域にある不動産業者の広告を調べるのがおすすめです。取り扱っている物件の単価から客層や商圏がわかります。不動産業者登録をしていれば、レインズを確認してサンプルを集めていき、平均的なAD取得率や客単価を割り出していくのも良いと思います。

ただ、土地勘のない地域は調べにくいですね。そういうときは、イタンジのような不動産テック企業にデータを求めても良いのではないでしょうか。全国の不動産データが集まっているので、有益な情報を得られるはずです。

賃貸仲介業を営むには、正確なデータが不可欠

――やはり市場調査でもデータ管理が1つのポイントになってきますね。

データ管理は、事業計画の作成時だけでなく開業後も重要です。当初の事業計画通りに進む方が珍しいので、ほとんどの会社が途中で何度も軌道修正をかけていきます。

そのときに、市場調査で知り得たデータと事業を進める中で得たデータの差を分析する必要があります。最初にデータを集める仕組を構築するのは大変ですが、後々必ず役に立ちます。

――集めるべきデータの種類と確認方法を教えてください。

確実に押さえておくべきデータは、平均的な成約単価と来店成約率、反響来店率、反響数です。月ごとの遷移は必ず確認しつつ、さらに「昨年対比」をしていくことが重要ですね。不動産仲介業は時期によって季節変動が大きいので昨年対比の変動を見ながら、戦略を変えていくのです。

――データ管理と事業計画を注視しながら修正を加えていった事例をご紹介いただけますか。

開業時の事業計画で、損益分岐ラインを低く設定していた店舗がありました。修正内容の1つとして、広告宣伝費を増やして損益分岐ラインを上げたのですが、その際に実施したのが「来店特典を設けてお客様に還元する」という施策です。その結果、反響数と来店率が向上して成約数も伸び、利益拡大につながりました。

このように、あえて原価を上げて、損益分岐ラインを上げるという修正を加えるケースもあります。利益拡大につながるように損益分岐ラインを見直したり、固定費の配分を変えたりするということが有効ですね。

一手先、二手先、三手先ぐらいまで考えながら事業計画を立てる

――データ管理と事業計画において、「ノマドクラウド」を入れた方が良いと思う点はありますか?

ノマドクラウドは、反響ルートから入ってくるお客様の情報をデータとして機械的に登録したり保管したりできます。お客様のデータがそのままクラウド上に登録されることで、データの蓄積がしやすいというのもポイントですね。

事業計画を立てるにしても、途中で軌道修正をするにしても、データそのものが正しくなければなりません。一方で、人間が介在することで発生しうるのがヒューマンエラーですよね。つまり、可能な限り人間の要素を排除した方がデータの精度も上がり、正確な事業計画と軌道修正ができるのです。

――最後に、データ管理と事業計画を立ててこれから開業しようと考えている方にメッセージをお願いします。

開業に向けた準備はとにかく重要ですね。「こういう展開になったら、こういう風に持っていこう」というように、準備の過程で見えてくることもあります。事業計画の方向転換という発想も生まれやすくなりますね。

正直に申し上げると、できるだけの準備をしたとしても壁に当たるときは絶対あります。だからこそ市場調査を大事にして、ロジックを大切にしましょう。結果的にそれが間違っていたとしても、ロジックだった仮説を立てられていれば軌道修正もしやすいと思います。